トヨタ流問題解決の入り口はまず問題発見です。問題解決がうまくいくかどうかは
いかに問題をうまく発見するかにかかっています。今回は、「問題発見の3つの極意」
についてわかりやすく解説します。
1. 問題発見の3つの極意
ビジネスの現場は常に問題解決の連続であり、企業経営も本質は問題解決にある
と言っても過言ではないでしょう。
しかし、問題解決はすべての知的な機能の中で、最も複雑な思考であり、特に、
あるべき姿を明確にして問題を発見する過程が重要であるため、あまり知られていない
3つの極意についてわかりやすく整理していきます。
「問題がわかれば、問題解決の半分は終わったようなものである。」とよく言われます。
問題発見が問題解決のスタート地点であることは言うまでもありません。
問題を間違えて捉えれば、解決策も間違った選択をすることになり、結果が望む
姿と異なってしまうことになります。
要するに、正しく問題を発見するということが問題解決における最初の関門であると
言うことです。
(1)問題を定義する
問題解決は、まず現状のどこに問題があるのかを発見することから始まります。
問題とは現状とあるべき姿との間にある差(ギャップ)であると問題解決の教科書には
書いてあります。そもそもこの定義は、ハーバート・アレクサンダー・サイモンが1979年
に書いた「意思決定の科学」の中に描かれている定義です。
図に示すと下図のようになります。
この図式は非常にシンプルでわかりやすいため、現在では広く受け入れられています。
この図からも明らかなように、問題の定義付けが問題解決のすべての出発点になります。
ハーバート・アレクサンダー・サイモンは「問題解決は目標の設定、現状と目標との間の
差異の発見、それら特定の差異を減少させるのに適当な、記憶の中にある、もしくは
探索による、ある道具または過程の適用という形で進行する。」と言っています。
ここで注目すべきは、「現状と目標との差異の発見」ということです。「目標」とはあるべき
姿の状態を表します。しかし、「目標」という言葉を使うと、単に数値目標を思い浮かべがち
になってしまいます。
例として、「今月の売り上げ目標に対して現状では目標未達になりそう」という状態があると
します。この時に何を問題と捉えるかでその後の展開がまるで変わってきます。
数値目標ということに縛られると、「今月の売り上げ目標と現状の売り上げ予想との差異が
問題である」と定義づけしやすいのですが、そういう風に定義づけした場合、「今月の
売り上げ目標と現状の売り上げ予想とを引き算して、その差異としての未達金額が問題
だとしてしまうのでしょう。
そうすると、未達金額が問題だとして、問題点と課題を掘り下げていくことになります。
この場合、問題点は売り上げ目標を達成させるために予め策定した幾つかの項目の中で、
その達成率が計画対比で未達になっている項目があるということになると思います。
したがって課題は、その達成率が計画対比で未達になっている項目ごとにその理由を
明らかにし、計画通りの成果を出すために克服すべきネックを解決するための追加施策
を新たに策定するということになります。
このように、視点がどんどん縮まって行ってしまい、結果として当初の数値目標達成が全て
のようになってしまい、なんとも窮屈な発想になってしまうのです。もちろん、このやり方が
間違いというわけではなく、計画達成のためには必要なプロセスなのですが、私たちはもう少し
広い観点から問題をとらまえたいわけです。
要するに、「今月の売り上げ目標に対して現状では目標未達になることが問題である」という
問題ばかりではなく、仕事のマネジメントという観点で見ると、いろいろな問題がさらに浮き彫り
になってくると言うことです。
例えば、「売り上げを上げたい目的はなんだろうか。利益確保であれば、当面売り上げを
上げられないのなら、経費を押さえるとか、原価を低減することも併せて考える」とか、
「最近のプロジェクトでは、同じように目標未達になることが多い。どうも目標策定段階や
施策検討、施策実施などの仕組みに不備な点があるようだ。」とか、「業務プロセスがうまく
回っていないようだ。このままいくと今に大きな問題を起こしそうだ。早急に手を打っておきたい。」
というようなことが見えてくるということです。
言い換えると、すでに起きてしまっている問題ばかりでなく、仕組みの不備の問題や、
まだ起きてはいないが、近い将来に対応しなければならない課題についても対象としたいのです。
(2)問題を正しく認識する
問題をいかに発見するかということが問題解決においては非常に重要であるということは、
すでにおわかりのことと思います。
問題を間違えて捉えれば、間違った解決策を導くことになり、望む結果が得られないと
いうことなのですが、正しく問題を発見できないということは、実は、仕事の目的を正しく
認識できないということに他ならないのです。
「正しく問題を発見できるかどうか」ということを通じて、私たちは、部下が正しく仕事の目的を
認識できているかどうかを判断できるということなのです。それは、部下の側から上司を見ても
同じことが言えるわけです。
私たちは日常業務の中で「問題発見」ということを通じて、上司と部下が緊張感を持って
切磋琢磨することも可能であるし、部下指導力の向上、お互いの自己研鑽力の向上、
ひいては、上司と部下のOJTを通したコミュニケーションの向上などが大いに期待できるのです。
このように、問題発見は問題解決においては最重要であることはもちろんの事、OJTという
切り口においても非常に重要な位置付けにあるということを、私たちは強く認識すべきである
と思います。
(3)問題発見の落とし穴に気をつける
「現状と目標とのギャップが問題であるから、現状と目標を数値で示し、引き算をした結果が
問題である」という解説が散見されます。
これが間違いであるということではありませんが、「問題」という用語の範囲を極めて狭く
捉えており、「問題解決」が持つ大きな広がりを自ら閉じてしまうという、明らかに残念な
解釈と言わざるをえません。
私たちは問題の発生には様々な理由があり、その背景には、問題を起こしてしまう組織の
技術力、マネジメント力、人間力、組織文化・風土・価値観などに何らかの要因があって
起きてしまうのであって、そうした問題に取り組み、解決することによって、その経験を
何とか将来に活かしたいと思っているのです。
したがって、前述したような狭い了見での「問題発見」による落とし穴にはまるのではなく、
私たちの組織として、あるいは、個人としても何らかの知見や技術力の蓄積につながるような
問題解決としたいと思うのです。
2. まとめ
今回は、問題解決のスタート地点である「問題発見」について、「問題発見の3つの極意」
として整理してみました。
(1)問題を定義する
何を問題として捉えるかが非常に重要なのです。スタート地点を間違えると当然ながら
望む着地点にたどり着けないことになってしまいます。
大事なことは、数値目標との差異ではなく、どういう状態を実現したいのかという目的を
強く意識して、それが望み通り実現できているのかという観点で問題を定義するという
ことが非常に重要なことなのです。
(2)問題を正しく認識する
問題を発見しようとするとき、単にその問題の表層に現れている現象を見るのでなく、
その根底に潜んでいる根深い問題の本質を正しく認識することが重要です。
そのことが部下を通して仕事の成果を出すというマネジメントの本質、すなわち、
その組織の持つ業務プロセスの脆弱性をあぶり出すことになるのです。
(3)問題発見の落とし穴に気をつける
私たちは問題発見を通して、問題を解決し、個々の問題解決を通して組織として
将来起こるかもしれない問題に対しての何らかの教訓なり、知識資産、技術資産
を蓄積し、それをいつでも引き出して利用できるインフラを整備しておきたいのです。
しかるに、単に目の前の不具合現象を解決することが目的化してしまうと、「モグラ叩き」
が仕事になり、目的になってしまう恐れがあるのです。
私たちは、問題発見をするとき、単に目先の現象にとらわれるという落とし穴にはまる
ことなく、その根底にある本質に迫るという意識を常に持ち続けたいと思うのです。